天の原ふりさけ見れば春日なる

• 三笠の山に出でし月かも
• 花ぞむかしの香ににほひける
• 乱れそめにしわれならなくに
• あはでこの世を過ぐしてよとや
• 人の命の惜しくもあるかな

名にしおはば逢坂山のさねかづら

• 人に知られでくるよしもがな
• 人にはつげよあまのつり舟
• 人知れずこそ思ひそめしか
• あまりてなどか人の恋しき
• 人をも身をも恨みざらまし

かささぎのわたせる橋におく霜の

• 白きを見れば夜ぞふけにける
• 松もむかしの友ならなくに
• 今ひとたびのみゆき待たなむ
• いつみきとてか恋しかるらむ
• まつとしきかば今かへり来む

しのぶれど色に出でにけりわが恋は

• ものや思ふと人の問ふまで
• 人知れずこそ思ひそめしか
• からくれなゐに水くくるとは
• おきまどはせる白菊の花
• 恋ぞつもりて淵となりぬる

君がため春の野に出でて若菜つむ

• 我が衣手に雪はふりつつ
• ながくもがなと思ひけるかな
• 我がころも手は露にぬれつつ
• からくれなゐに水くくるとは
• 吉野の里にふれる白雪

人はいさ心も知らずふるさとは

• 花ぞむかしの香ににほひける
• 花よりほかに知る人もなし
• 身のいたづらになりぬべきかな
• しづ心なく花の散るらむ
• 人こそ見えね秋はきにけり

つくばねの峰よりおつるみなの川

• 恋ぞつもりて淵となりぬる
• 恋しかるべき夜半の月かな
• 人に知られでくるよしもがな
• つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
• 夢の通ひ路人目よくらむ

吹くからに秋の草木のしをるれば

• むべ山風をあらしといふらむ
• 末の松山波こさじとは
• 恋ぞつもりて淵となりぬる
• つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
• ものや思ふと人の問ふまで

秋の田のかりほの庵のとまをあらみ

• 我がころも手は露にぬれつつ
• 我が衣手に雪はふりつつ
• むべ山風をあらしといふらむ
• ながくもがなと思ひけるかな
• 松もむかしの友ならなくに

陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに

• 乱れそめにしわれならなくに
• 乱れて今朝はものをこそ思へ
• しづ心なく花の散るらむ
• ながながし夜をひとりかもねむ
• 世を宇治山と人はいふなり