ほととぎす　なきつるかたを　ながむれば

• たゞありあけの　月ぞのこれる
• かこちがほなる　わがなみだかな
• ふり行くものは　我身なりけり
• あはでこの世を　過ぐしてよとや
• 衣ほすてふ　天の香具山

思ひわび　さてもいのちは　ある物を

• うきにたへぬは　なみだなりけり
• よをおもふゆへに　物思ふ身は
• やまのおくにも　鹿ぞなくなる
• わが身よにふる　ながめせしまに
• くもゐにまがふ　奥津白波

世の中よ　道こそなけれ　おもひ入る

• やまのおくにも　鹿ぞなくなる
• なをあまりある　昔なりけり
• ふり行くものは　我身なりけり
• まつとし聞かば　今かへりこむ
• 名こそながれて　なをきこえけれ

ながらへば　またこのごろや　しのばれん

• うしと見しよぞ　いまは恋しき
• 閨のひまさへ　つれなかりけり
• あまのをぶねの　綱手かなしも
• 昼は消えつゝ　物をこそおもへ
• やまのおくにも　鹿ぞなくなる

よもすがら　物思ふころは　明けやらぬ

• 閨のひまさへ　つれなかりけり
• 人こそしらね　かはくまもなし
• よをおもふゆへに　物思ふ身は
• くだけてものを　おもふころかな
• みだれそめにし　我ならなくに

なげけとて　月やは物を　思はする

• かこちがほなる　わがなみだかな
• なをあまりある　昔なりけり
• 故郷さむく　ころもうつなり
• 龍田の川の　にしきなりけり
• 身をつくしても　あはむとぞ思ふ

村雨の　露もまだひぬ　まきのはに

• 霧たちのぼる　あきのゆふぐれ
• 故郷さむく　ころもうつなり
• 故郷さむく　ころもうつなり
• 松もむかしの　ともならなくに
• かけじや袖の　ぬれもこそすれ

難波江の　あしのかりねの　ひとよゆへ

• 身をつくしてや　恋わたるべき
• みそぎぞ夏の　しるしなりける
• よをおもふゆへに　物思ふ身は
• 今ひとたびの　みゆきまたなん
• 雲のいづくに　月やどるらむ

玉の緒よ　絶なば絶ね　ながらへば

• 忍ぶることの　よはりもぞする
• 人こそしらね　かはくまもなし
• よをおもふゆへに　物思ふ身は
• あはれことしの　秋もいぬめり
• 有明の月を　待ちいでつるかな

見せばやな　をじまのあまの　袖だにも

• ぬれにぞぬれし　色はかはらず
• 行へもしらぬ　恋のみちかな
• あまりてなどか　人のこひしき
• 夢の通ひ路　人目よくらむ
• 物や思ふと　人の問ふまで